2023年9月4日月曜日

令和5年 8月号

 劇団はミュージカル活動を積極的に展開しながら、児童劇団員の情操面での育成を掲げての活動でもあります。では情操とは何か、広辞苑によりますと「感情のうち、道徳的・芸術的・宗教的など文化的・社会的価値を具えた複雑で高次なもの」とあります。そして情操教育となると「創造的・批判的な心情、積極的・自主的な態度、豊かな感受性と自己表現の能力を育てることを目的とする教育」とあります。

このような難しい定義を改めて考えると、私たち劇団活動が安易に情操教育なんておこがましいことを言ってはいけない気にもなります。特に発育段階にある子ども達は生まれた環境の中で、それぞれが個別の情操面を育みながら成長していきます。その環境の中心にいるのはもちろん親ですから、親の育て方によって子どもの情操面も大きく変わってきます。

 劇団ではそれぞれ違った環境で育った子ども達が集まってきて、更に「ミュージカルの創作」というそれまでとは全く異なった環境で活動することになります。芸術的才能を持った子もいればそうでない子もいます。スポーツ向きの子もいれば、異次元の世界に舞い込んできたかのように、萎縮して最初はなかなか馴染めない子もいます。しかしみんなで一緒になって作品を作り上げるさまざまの体験を通して、それぞれが個性的な情操面の育成に自然と繋がっていくのです。ですから劇団で掲げる情操教育も、結果として少しは役に立っているのかもしれません。

 最近の若者の犯罪や自殺が増えていますが、劇団のように一つの目標に向かってみんなで作り上げていく活動をしている子ども達には縁のないことのように思われます。楽しくて夢中になれるミュージカルの舞台に立った子ども達が、間違った方向に進む訳はないと思いたいのです。「学校には行きたくないが、劇団は休みたくない」という声をよく聞きます。親御さんにとっては複雑でしょうが、劇団を楽しく続けているお子さんをどうぞ信じてあげてください。





令和5年 7月号

 若者には限りない未来があり大きな夢を描くことができる。夢を描くことは、将来に対しての設計図を作り、自らが設定した具体的な進路に向かって、果敢に挑んでいくパワーを与えてくれる。芸術やスポーツにおいては、努力目標も明確に示されていて、そのラインに沿っていけばある程度は描いていた夢に近づくこともできるが、次第に到達点はどこにあるのか定まらなくなり、設計図を修正しなければならない時がやってくる。

例えばスポーツは現役選手の寿命というものがあり、引退してからの人生をどう生きるのか、俳優にしてもスター的存在になった後の人生がどうなるのか、アイドル的女優などもある年齢に達した時のギャップに遭遇して、以後の生き方を考え直さなければならない時が来る。幼い頃から描いてきた夢の修正、設計図を書き直す楽しみな時期が必ずやってくるのだ。

しかしそのようなことを見越して、現実的な夢を描けということでは決してない。若い時にしか出来ない何にでも挑戦し可能にしてやるぞという大胆な勢い、いわば無謀とも言えるだけの大きな塊が若者によって弾ける勢い、それが新しい世界を作り上げる。

だからできるだけ大きな夢を描いてほしい。たとえ夢が破れてもまた、新たに夢を描けばいい。恐れることはない、躊躇するな、何度も修正していけるのが若者の特権だ。私にも若い時があった。これまで何度も修正を迫られてきた。だからこそもっと大きな夢を描けた筈だと振り返っても見るが、反省だらけの半生を今更どうすることもできない。

最大の修正は劇団四季を辞めた時、さて明日からどうして生きていこうかと考えていた矢先ふと児童劇団をやってみようと思いついた。収入のアテもない無謀な決断だったが、今大勢の子ども達や若者に囲まれた境遇を考えると、不思議な気がしてならない。どんな夢にも勝る至福の場所が劇団であり、そのような素晴らしい場所を与えてくれた神に限りなく感謝している。我が夢を修正したおかげである。