2020年9月19日土曜日

令和2年 8月号

 昔、少年だった頃観た映画は幾つになっても記憶に残っているものです。ターザンと言えばジョニー・ワイズミュラー、1930年代から1940年代にかけて製作された10本あまりの「ターザンシリーズ」をとにかく夢中になって観に行ったものです。可愛い小学生の時です。

最近懐かしさのあまり10本セットのDVDを購入して片っ端から見ていきました。幼い頃の憧れていた記憶が蘇ってきました。と同時に歳をとった自分の観る目との差がありすぎて戸惑ってしまいます。当時の映像技術にしては精一杯の作り方であったと思いますが、

例えばターザンを取り巻く動物たちは本物を訓練して使っています。ライオンなどの猛獣も本物を使ってうまくごまかしながら撮影しているのが今ではよく分かります。幼かった私はそんなこと分かる筈もないしジャングルの世界に入って充分に楽しむことができていました。ターザン崇拝の気持ちは今でも決して失われてはいません。

 先日2016年製作の「ターザン:REBORN」を観ました。最近の映像技術はどこまでが本物でどこまでがCG映像か見分けがつかない程で、ターザンが猛獣と取っ組み合いで戦ったり、ターザンに好意を持って擦り寄ってくる動物がいたり、何の違和感も感じさせないごく自然な形で観る人を楽しませてくれます。昔とは比較にならないほどリアルな画像です。もっともジュラシックパークに登場する恐竜たちも当たり前のように違和感なく存在しているのですが、このようなCGを駆使した映画はゲームのように楽しむことは出来てもその効果を考えると心からの感動を呼び起こすには至っていないように思われます。かつての名作と言われた映画にはそのような高度な技術的工夫が施されていなくても人の人生観をひっくり返すような、感動の涙なくしては見られない強烈な印象を与えてくれていたものです。

最近のミュージカルの舞台にしても派手なマッピング映像によって現実離れしたバーチャル世界を表出し、まるでテーマパークにいるような感覚で客を引き込んでいくようなものが多くなってきています。特に2、5次元ミュージカルと言われるような舞台では内容よりも視覚で若者を惹きつけるために観客は遊園地に行くようなつもりで集まってきます。

私たちと違うジャンルとして存在しているのを否定するわけではありませんが、照明や音響にしても度を越した舞台展開でこれでもかこれでもかと観客を煽り立てる手法には恐ろしささえ感じてしまいます。映画のCGにしても舞台のマッピング映像にしても有効に使えばそれなりの効果も出て観客の心を掴むことは出来ます。但しお金がかかります。しかしそのような最新技術に頼らなくても人々の感動をよぶ作品はいくらでもできると思います。私たちは舞台芸術という奥の深い器の中で私たちにしか出来ない独自の創作活動を続けていきたいと思っています。