2月の終わりに日大芸術学部の「白い病」の公演を観てきました。1年生から4年生までのオーディションで選ばれた演劇学科の学生たちが手作りの舞台で熱演していました。しかし手作りと言っても演出は日本の演劇界の第一線で活躍している東宝演劇部の山田和也さん。帝国劇場、日生劇場、PARCO劇場など多くの演出作品で数々の賞を受賞、最近では子ども達に人気のミュージカル「アニー」の演出も行なっている人です。その一流の演出家の指導のもとで創り上げた舞台は作品のテーマが明確で私は珍しく食い入るように2時間釘付けになってしまいました。もちろん学生たちの公演なので演出意図が活かしきれない未熟さやもどかしさもありましたが、流石だと頷ける展開も随所に見られこのような恵まれた環境で学んでいる学生達はもっともっと頑張ってほしいと思いました。
この「白い病」という作品はチェコの有名作家カレル・チャペックの戯曲で第二次世界大戦没発の2年前に書かれたもので、現在の世界情勢に当てはめて考えることもできるゾッとする鳥肌もののSF作品でもあります。この舞台に登場する断固として戦争を推し進める総司令官の自らが不治の伝染病に罹患した途端に見せる滑稽なまでの心の変化に同情してしまいました。いくら戦争によって全てを勝ち取ると豪語していても自分の身体のことが気になりだすと考え方や思想までも変わってきます。作者はそこに至る伏線を巧に準備しながら観客の心をかき乱していくのです。
私たちは日常の健康な時はそれが当たり前のように暮らしていますが、私のようにコロナに侵されてからは諸器官の不具が見つかり慌てて元に戻そうと再起動しても老化によって手遅れ、頑張りすぎて逆に酷い筋肉痛になってしまった筋トレの例など自己管理のいい加減さに打ちひしがれています。「ロビンソン&ロビンソン」の歌詞にあるように当たり前の毎日がかけがえのないものであることに気が付かない訳ではありませんが‥‥。