2024年7月10日水曜日

令和6年 7月号

 坪田一男先生のことを紹介したいと思います。

坪田一男先生は現在 (株)坪田ラボの代表取締役社長であり、慶応義塾大学名誉教授/慶応義塾大学医学部発ベンチャー協議会代表/医学博士/経営学修士(MBA)などの幾つもの肩書きをお持ちで正に八面六臂のご活躍をなさっている私が最も尊敬している方のお一人です。

先生には5人のお子さんがあり長男、次男の2人を除いて後の3人が25年前小学生の時に西船橋KMに入団してきました。そして彼らは大人になった現在に至るまで劇団BDPの活動を支え続けてくれています。お父様である坪田一男先生とはその25年前からのお付き合いで、いろいろ相談に乗っていただいたり、折に触れてご援助いただいたり、現在劇団の株主にもなっていただいております。

先生にお会いした当初は眼科医としてのご活躍という程度の認識しかありませんでしたが、この度出版された「新しい医師の役割」という先生のご著書に触れてこれまで存じ上げなかった奥深さに圧倒され、改めて先生の偉業にひれ伏してしまうほどの感動と勇気を与えていただきました。と同時に私の甘っちょろい劇団運営によって妻や周りのスタッフには迷惑のかけ通しであったことを深く反省することにもなりました。

劇団を立ち上げて何とかやってきた30年の間に坪田先生は独特の「ごきげん」主義で何百億という数字を動かす株式上場会社をお作りになりました。そして日本の医療界にメスを入れるイノベーションを提唱し研究を重ね、世界市場に向けて活発なビジネス展開をなさっています。

そのような先生ですが良き家庭のパパとして公演やイベントにも足を運んでくださり、時々奥様のことをみんなの前で「カズコ愛しているよ !」と明るく愛深い表現をなさったりする楽しいお人柄でもあり、私など恥ずかしくて到底真似できることではありませんが、やはり常識では計れない頭脳と行動力をお持ちの先生だけにこの先更にとてつもない大きなことが起こりそうな予感がしないでもありません。




令和6年 6月号

私の身近なところに新婚以来まだ一度も夫婦喧嘩をしたことがないという人がいます。もちろんまだ10年は経っていないということですが、それでも私には信じられないことです。

このご夫婦の場合どちらかが寛大で相手の言うことを全て理解してあげるとても良い性格の持ち主であるかもしれないし、あるいは喧嘩になるような意見の対立がないという二人の間柄とも考えることができます。恐らくそんなこと自分達にはあり得ないと声を大にして反論するご夫婦が圧倒的に多いと思いますが、どの程度が喧嘩なのかという内容にもよると思います。

私は58年間夫婦生活を続けていますが、よく言い争いをして私の方が激怒したことが数え切れないほどあります。しかしその都度私は自室にこもって呼吸を整えます。いつまでもカッカとした状態では身体に良くないしやるべき仕事も捗らないので出来るだけ早く気持ちを切り替えて怒ったことは忘れるようにしています。

私の妻は人さまの前では言葉を荒げたりしたことのないとても優しい女性ですが、時として私にだけは激しい言葉を発する時があります。そのギャップに私も負けずとばかり言い返すという口喧嘩のパターンですが、それでも58年間よく続いてきたものだと自分を褒めてやりたい ? いや、そんなことはない、やはり軍配は妻の方に上がるでしょう。

劇団の草創期から彼女の協力なくしては存続できなかった功績を考えると「喧嘩などとんでもない」と平時には感謝の心を忘れないように心がけているつもりですが、感情的になると気持ちをコントロールするのが難しく、幾つになっても人間修行の最も肝心なところから抜け出せないでうろうろしています。

私の場合絶対に暴力に訴えることはありませんが、最近の暗いニュースで多いのは一時的にカッとなって我慢するという辛抱強さが希薄になっているために起きている事件です。もう少し冷静になれば防げたかもしれないのにと自らの未熟さを棚に上げて呟いています。




 

2024年5月22日水曜日

令和6年 5月号

 今年の3月は例年より開花が遅かった桜前線を尻目に子どもミュージカルの春公演が一足早く満開の花を咲かせ、各地とも例年を上回る多数の出演者によって嘗てない圧巻の舞台を見せてくれました。特に首都圏では劇団員同士の交流が盛んになってきたこともあって相互の賛助出演で協力し合う頼もしい流れも生まれてきました。また劇団員でない一般の子ども達の賛助出演者も多く、いずれ入団に繋がる可能性もあることから3月は春爛漫に相応しい実り多き公演シーズンとなりました。

毎年3月から4月にかけては卒業や入学、進級のシーズンで子ども達にとっては大きな変化に夢が膨らむ季節でもあります。進学を機に勉学に励むため劇団を去っていく者、児童劇団から更に上を目指して大学の演劇科や専門学校、或いは大手の養成所に進む者など「大きな夢」を離れていく理由は各人様々ですが彼らの新しい門出にエールを送らなければと思いながらも中には理解に苦しむような選択をした子もいて頭を抱えることもあります。しかしその子の将来がどのように展開するかは神のみぞ知ることであり、助言はできても本人のやりたい進路を否定するようなことは一切しないように努めています。

時々各地の公演会場などで嘗ての劇団員からその後の様子を聞くこともありますが、在籍当時演技者としての将来性は全くなかったような子が立派な社会人として生きている姿に感動を覚え、努力して成し遂げるという劇団で培ってきた強さが実社会でも生かされていることに喜びを感じずにはいられません。しかし逆に役者の道に進むとなると一般社会人とは正反対の安定など望むべくもない修行の場に身を投じることになります。投じた以上は厳しさの中でひたすら向上心を維持しながら努力を積み重ねていかなければなりません。そして苦労しながらも演ずることが喜びとなり生き甲斐となって奥深い舞台芸術という魅力に取り憑かれてしまいます。多くの役者達をとりこにしている所以でもあります。







令和6年 4月号

 2月の終わりに日大芸術学部の「白い病」の公演を観てきました。1年生から4年生までのオーディションで選ばれた演劇学科の学生たちが手作りの舞台で熱演していました。しかし手作りと言っても演出は日本の演劇界の第一線で活躍している東宝演劇部の山田和也さん。帝国劇場、日生劇場、PARCO劇場など多くの演出作品で数々の賞を受賞、最近では子ども達に人気のミュージカル「アニー」の演出も行なっている人です。その一流の演出家の指導のもとで創り上げた舞台は作品のテーマが明確で私は珍しく食い入るように2時間釘付けになってしまいました。もちろん学生たちの公演なので演出意図が活かしきれない未熟さやもどかしさもありましたが、流石だと頷ける展開も随所に見られこのような恵まれた環境で学んでいる学生達はもっともっと頑張ってほしいと思いました。

この「白い病」という作品はチェコの有名作家カレル・チャペックの戯曲で第二次世界大戦没発の2年前に書かれたもので、現在の世界情勢に当てはめて考えることもできるゾッとする鳥肌もののSF作品でもあります。この舞台に登場する断固として戦争を推し進める総司令官の自らが不治の伝染病に罹患した途端に見せる滑稽なまでの心の変化に同情してしまいました。いくら戦争によって全てを勝ち取ると豪語していても自分の身体のことが気になりだすと考え方や思想までも変わってきます。作者はそこに至る伏線を巧に準備しながら観客の心をかき乱していくのです。

私たちは日常の健康な時はそれが当たり前のように暮らしていますが、私のようにコロナに侵されてからは諸器官の不具が見つかり慌てて元に戻そうと再起動しても老化によって手遅れ、頑張りすぎて逆に酷い筋肉痛になってしまった筋トレの例など自己管理のいい加減さに打ちひしがれています。「ロビンソン&ロビンソン」の歌詞にあるように当たり前の毎日がかけがえのないものであることに気が付かない訳ではありませんが‥‥。




令和6年 3月号

 blanc(ブラン)という劇団の若手のグループが1月末小劇場で4日間の公演を行いました。メンバーの4人はそれぞれが児童劇団「大きな夢」で育ち大学や専門学校を経て現在劇団BDPの役者として活躍する一方「子どもミュージカル」の指導講師や事務局スタッフとして献身的に仕事をしてくれている頼もしい存在の面々です。

脚本から演出まで全て自分たちで創り上げた今回の演目「遅咲きの一室」はこれまでに抱いていた彼女たちのイメージを一新させた上質のコメディーとして見事な舞台を現出させてくれました。

嘗て大阪芸大でしっかり学んできた福原佑実の脚本は遅咲きではなく早咲きの一面を垣間見たような笑いの内に終幕では友情の絆でほろりとさせられるという構成の妙。逸材の脚本家の片鱗を思わせる小さな舞台での大きな成果に胸が弾みました。

また現有の劇団員の中ではベテランの域に入ってきた小渡優菜は新しいキャラクターに挑戦、少々頭の足りない役者志望の役柄を懸命に演じている姿に役者魂を見せつけられた思い、今後の期待度が益々高まっていきます。

そして驚いたのが濱由季子の演じたYouTuberの役。序盤から明るいテンポで惹きつける独特の存在感、元々ダンサーとしてこれまで劇団の舞台でも魅力あるダンスを披露していましたが今回は全くダンスなしの女優としての出演。持ち前の響く声を存分に発揮して爽やかに演じていました。

そしてもう一人のメンバーの古川美帆は普段は事務局の仕事で現場の舞台に顔を出すことはありませんが、そこは長年KMで鍛えたキャリアを活かして持ち前の悪のかけらもないような平和なキャラクターを熱演していました。

又今回BDPの先輩伊藤香が協力出演、登場しただけでも笑いを誘う面白いキャラで歌も歌って花を添えていました。そして脚本の福原佑実も売れない漫画家の役を売れているように嘘で惑わす役を好演し、しかも演出も兼ねての大活躍。今回のblancの公演は予想外の実りあるものとなりました。



2024年5月21日火曜日

令和6年 新年号

 今年は元旦から北陸地方の地震と津波の被害に襲われたニュースを見てしばし言葉を失ってしまいました。被災した人たちの避難生活や住居を失った人たちのこれから先のことを考えると居た堪らない気持ちになります。地震が起きるまでは皆さん穏やかな元日の朝を迎え家族の安全と幸せを祈りながら今年も良い年になりますようにと明るい希望を持ってスタートしたと思います。それが夕方になって一瞬にして打ち砕かれてしまったのです。誰一人予想もしなかった自然の脅威に怒りのやり場もなく、只、手をこまぬいてテレビの画面を見ているだけの苛立ちの中で一刻も早い復旧を祈るしかありません。石川県には加賀子どもミュージカルがありますが、幸いに劇団員の家庭では被害はなく安全が確認されたので多少安堵しましたが、今後の公演活動に向けて支障をきたさないよう祈らずにはいられません。

 今回の災害のようにいつどんな形で突然私たちに降りかかってくるかわかりません。今安泰でも次の瞬間どうなるのか誰にも予測はつきません。災害だけでなく航空事故や交通事故あるいは戦争に巻き込まれる危険もあり、突如健康を害して寝込んでしまうとか私たちの周りを見渡せばこれで絶対安全だという保証はどこにもありません。だからこそ今与えられている現在という時間を精一杯生かさないと勿体無いのです。人は誰でも必ず年老いてやがてこの世から去っていきます。若者は若い時にしかできないこと、今しかできないことをしっかりやるべきです。

年齢を重ねてくると肉体が思いのほか不自由になり若い頃のような勢いはなくなり、どんな艱難に遭遇しても果敢に走っていく姿は懐かしさの中でしか存在しなくなります。しかし過去に培った経験や能力は若者にはない叡智によって優れた人格の形成を生み出していくのも事実です。いずれにしても長いようで短い人生、自戒も含めて若い時にやっておけばよかったと思うことのなんと多いことでしょう。