2025年3月5日水曜日

令和7年 3月号

 今年の秋から始まるNHK連続テレビ小説「ばけばけ」は小泉八雲 (ラフカディオハーン)の妻小泉セツをモデルにした物語だそうです。そういえば30数年前私が40代後半の時NHKの「日本の面影」という番組でやはり小泉八雲の生涯を描いたドラマスペシャルがありました。小泉八雲は一時期島根県の松江にいて妻のセツのもとでたくさんの怪談を書き上げたことでも有名です。

私は高校卒業まで松江にいたこともあってそのドラマの方言指導を受け持ち小泉八雲と奥さんにとても難しい出雲弁を一つ一つ丁寧に指導させていただきました。その時のラフカディオハーン役のジョージ・チャキリスさんと妻役の壇ふみさんと一緒に過ごす楽しい時間が何日かあったのを懐かしく思い出しました。

チャキリスさんといえば初のアメリカのミュージカル映画「ウエストサイド物語」のプエルトリコ系不良集団シャークスのリーダー、ベルドナルド役で強烈なデビューを果たし一気に世界的な大スターになった方です。その人が目の前にいて壇ふみさんと通訳を交えて談笑したことなど宝物のような思い出となっています。

さてあれから30数年、再び松江がドラマに登場します。この「ばけばけ」は妻のセツさんが主役で2892人のオーディションから女優の高石あかりさんが選ばれたそうですが、夫役の小泉八雲は国内だけでなく海外にも募集をかけ1767人の応募者があり日本国内は246人、海外からは1521人(アメリカ1352人、イギリス149人、オーストラリア・ニュージーランド20人)の中からイギリスの俳優トミーバストウさんがオーディションの結果決まったそうです。

バストウさんは日本の文化や映画に惹かれて10年間日本語を学んだそうですが、それにしても日本のドラマに海外からこんなにも大勢の人が応募するなんてすごいことだと思います。エミー賞を総なめにした真田広之主演「SHOGUN 将軍」の影響もあるかもしれませんが、この先の日本の映画やドラマ界に一層の弾みがついていくことを期待せずにはいられません。



2025年2月14日金曜日

令和7年 1月号

 最近つくづく思うのは我が劇団はなんて素晴らしいところだろうということです。

小さな子どもから大人までいつも一緒になってレッスンに励み、舞台美術、照明、音響など一流のスタッフさんに囲まれて毎年大きなホールでミュージカルの舞台に立てている現実、これが既に30年以上も続いています。

しかも子ども達はわざわざ中央まで出かける必要もなく各地域において全国共通同じように創作活動に打ち込める環境があるということ、他にはない児童劇団「大きな夢」だけの特色です。

上演作品にしても劇団のオリジナル作品を4〜5年の周期で各地持ち回りのように公演しているため、数年先に回ってくる憧れの役柄を想定しそれを目標に努力する子も多くこれがまた向上心に拍車をかけます。このような独自のシステムによって相互の交流も盛んに行われ、父母会の活動もネットワークによっての協力態勢がしっかり確立されてきました。

また毎年年末になると歌のコンクール「夢コン」で全国の子ども達が一堂に会し各地のKMで予選を勝ち抜いた精鋭が歌唱力を競い合い、そのレベルは年々驚くほど高くなり劇団員を刺激しやる気を掻き立てていきます。劇団はプロの俳優を育てようとやっているわけではありませんが、いつの間にか自分の才能に目覚めプロを目指して頑張っている子も増え、既に立派に活躍している劇団出身者も多くなってきました。

しかしミュージカルに限らず社会に出てプロになるということはただ単にスキルをアップさせることではなく人間的な内面の成長が疎かになってはいけません。劇団で育んだ様々な体験を活かし、SNSでの誹謗や中傷はもってのほか、明るく謙虚に人の良いところを積極的に認めていける大きな人間になって欲しいと願わずにはいられません。





令和6年 12月号

 歳を重ねると月日の過ぎるのが超特急のように短く感じられ、あっという間に年末の夢コンがきてそしてすぐに新年を迎えるという目まぐるしいサイクルの中で生きているような気がしています。

子どもの頃は長く感じられた一年は10歳の子であれば10分の1の一年であり、私のように82歳になると82分の1年という短さになってしまいます。時間の長さは一定であっても状況によって感じ方が違うことを考えれば時間はあってもないくらい不思議な気持ちになる時があります。何かに夢中になっている時はあっという間に過ぎてしまいますが、行列で何かを待っている時などなかなか時間が経ちません。こんなことが気になるのはやはり歳のせいなのでしょうか。

さて歳のせいとは言いたくありませんが先日ある劇場で大したことでもないのに酷く腹立たしいことがありました。他人の行為に腹を立てて不愉快になることほど馬鹿らしいことはありませんが性格は幾つになっても変わらない自分が情けなくなります。

この時は私の席の隣にいた30代の女性の二人ですが、通路から私の席の前を通って座る時に狭くて通れないので私は素早く立ち上がってレディーファースト気取りで通してやりました。とろが大きなお尻が通過した後「すみません」も「ありがとうございます」の一言もなく二人の女性はおしゃべりに夢中、それが隣に座ったので居心地の悪さといったらありません。

NYのブロードウエイやロンドンのウエストエンドなどの劇場では必ず「ソーリー」と言って席に着くのが習慣のようでその一言があればお互いに気持ちよく観劇できるのです。ところが日本ではどうでしょう。周りを見ても徹底していないもどかしさを感じてしまいます。

礼儀を重んじると言われている日本人がこれでは恥ずかしい限りです。自分さえ良ければという他人を思いやる気持ちが希薄になってきているのか、私一人が意気がってみたところで所詮年寄りの戯言で済まされてしまいそうです。





令和6年 11月号

 Bプロの演技レッスンを狭い事務所で不定期ではあるが私のスケジュールの空きがある時にやっている。

大体4、5人のグループで2時間バッチリ、午前と午後、あるいは夜間と続けてやる時もあるが不思議と疲れない。それは可愛い子ども達がおじいちゃんを囲んで孫やひ孫と団欒しているような雰囲気でのレッスンであるから、私にとっては若返りのひと時と位置付けている。

何よりも談笑の中で一人一人の性格や向き不向きがよく分かり堅苦しい面接などでは得られない貴重な発見の場にもなっていて、外部のオーディションなどに行かせる時の人選にも役に立っている。

小学生はとにかく可愛い、中学生は大人の雰囲気で輝き始めている子もいて高校生と一緒にレッスンするような時もある。先日滑舌の基本的な話の中で、しゃべりにもいろんな言い方があって例えば寅さんの口上ように、と言ったところで、そうか「寅さん」って知ってるか ?と念を押したところ全くの無反応、それじゃ「男はつらいよ」という映画は ? 知りません。ちょっと待てよ、そんなことも知らないのか、山田洋次監督は? 尚更わからないと首を傾げる。えっ? 君たちは映画観ないのか ? 無反応、黒澤明監督は ? そうか、知らないのか、では清純派の女優としてデビュー以来日本の映画界のトップ女優として今なお第一線で活躍している吉永小百合は ? 知らない---残念 ! 

この時集まっていた中学と高校生は映画もテレビも見ないという。ほとんどスマホで事足りているようだ。そんな勿体無い、素晴らしい映画を観て感動し、感性が磨かれるようなことはないのか、果たして年齢の差によるものなのか、家族も含めて環境がそうなのかは分からないが兎に角一番吸収できる時期に、しかも現に劇団にいて舞台に立って演じている若者がそれでは困る。

あゝ目の前にいる中高生と私は70年近い開きがあり自分が宇宙人のような存在に思えてしまう。いやいやそれでも先輩として凛とした姿を見せなきゃ




令和6年 10月号

 私の代名詞であるフランスの世界的に有名な2枚目俳優アランドロンさんが亡くなった。ずば抜けたいい男、特に地元フランスでよりも日本の女性にモテた色男。その代名詞 ? 私が ? 自分の顔をよく見てみろよ ! と誰しも思うのは当たり前、それでも結構若い時から使い続けていた癖が今でも抜けていないから困ったものだ。誰かと話している時ふと口を滑らすと座が和み会話が楽しく進んでいく心地よい体験が忘れられないからだ。

あまりにも私と似ていないから言えることであって要はイケメン「水も滴るいい男」の代名詞、ところが最近若い劇団員の前でアランドロンのことを言っても全く反応がない。寂しい。

彼らは早速スマホを取り出して検索し、私の顔と比較しながら不審な目で見られてしまう。ジョークで楽しい雰囲気を作ろうとしたことが「変なおじさん」に急降下 !! さもあらん。アランドロンが活躍した時代を懐かしむ世代は年々減少していく。

ところが同じ時代に活躍していたオードリーヘップバーンになると現代の若者の間でも認知度が高く巷の広告宣伝にもよく登場している。「ローマの休日」は何度見ても心を揺さぶられるし、かつての名作と言われている映画は時代を超えて私たちの人生観まで変えてしまうほどの影響力がある。もちろん文学に関しても、芝居に関しても言えることだが、映画人口の方が圧倒的に多いからその恩恵に授かっている人の数も計り知れない。

最近は映画だけでなく若者が興味を持つあらゆるジャンルのものが横行し影響されるエンタメなども多岐にわたっているため簡単に論ずることもできないが、一律でない一人一人の個性の輝きを見失うことなく自分にしかできない能力を磨きながらしっかり将来を見つめて進んで欲しいと思う。

劇団BDP、児童劇団「大きな夢」でやっているミュージカル活動も所属している劇団員にとっては将来を左右する大きな分岐点になることもあり、劇団で学び培ったことが栄養価の高い成長促進剤になれば幸いである。



令和6年 9月号

 最近子どもミュージカルの公演会場でフォトスポットのパネルから顔を出して写真を撮る光景が多く見られるようになってきました。

あれッ? 同じパネルが他のKMの会場にもあったぞ ? と調べてみると父母会間で使いまわしていることが分りました。例えば「桃太郎!」や「ピエロ人形の詩」は加賀KMで制作したものを貸し出しているということです。加賀父母会の高野都さん(デザイナー・工芸作家)が製作なさったそうで、折角作ったものをそのままにしておくのは勿体無いということで高野さん自ら他のKMに呼びかけて有効利用してもらっているということです。

このような形での父母会同士の交流があり、昨年の父母会役員総会では遠隔地の札幌、福岡、熊本、広島、加賀、長野の役員の方々が交流を深めあったというお話も聞きました。それぞれ皆さんが郷土愛を持って結束し劇団活動を推進してくださっていることの有り難さ、遠隔地だけでなく関東首都圏の各KMの父母会の方々の交流も盛んに行われている現状に30周年を経た劇団は父母会という盤石の組織に守られての公演活動であることを忘れてはなりません。

元々父母会ができたのは、劇団が営利を目的とした商業主義的な活動と見られがちなこともあり、あくまでも地域に根差したミュージカル活動を推進する団体であり、教育的要素も含めての活動であることから各地域の保護者に運営してもらう組織として存在することになりました。

従って劇団は父母会からの依頼で現地に赴いて劇団員の指導に当たり、毎年の上演演目の舞台を仕上げるという独自の形として定着しています。子どもミュージカルの場合チケットを頒布するのはほとんどが父母会、つまり出演者の親御さんの手によってなされていますが、子どもが成長して高校生や大学生になっても自分では売り捌けない話もよく耳にします。出演者がチケットを捌かなければ成り立たない演劇の世界、この道で身を立てようとする者はしっかり心に刻んで欲しいと思います。




令和6年 8月号

児童劇団員のキャスティングについて書いてみたいと思います。

各地の子どもミュージカルは毎年上演作品が決まってから配役を決めるためのオーディションを行います。年一度のキャストオーディションは劇団員の実力と努力の成果が問われる最も重要な位置付けとなっています。

オーディションの結果を審議するキャスティング会議ではそれぞれ担当の講師が一つ一つの役について討議しながら配役にふさわしい子をピックアップしていきます。世間一般のオーディションではキャラクター的素材とそれに伴う実力が最優先されますが、「大きな夢」ではそれとは異なった独自の審査方法でやってきました。

日頃のレッスン態度や在籍年数、努力の成果が見られるかなども重要なポイントです。しかし主役となるとそればかりではありません。実力はもとより華のある存在感や責任感などの人間性、劇団活動に協力的かどうかなども判断材料になります。だからと言って毎年同じようにメインにすることは極力避けて他の子にもチャンスを与え成長を促していくことも忘れてはいません。期待していなかったような子が飛躍的に成長していった姿もたくさんみてきましたが、いずれにしても講師の先生達は苦渋の決断を迫られる時でもあります。発表したキャストで果たしてどの程度の完成度になるか、やってみなければわからない面も多く、キャスティングで成功した例もある一方逆に反省材料が多く残ってしまった例も少なくありません。

子ども達の将来にどのような影響を与えるのか一人一人の可能性を考えながら、尚且つ発表した後のフォローを講師の先生達はしっかりやっていかなければなりません。児童劇団「大きな夢」は「子どもの教育」ということを掲げて活動していますが、オーディションの結果だけでなく子ども達が今後も前向きに張り切って創作活動ができるよう具体的な心のこもったアドバイスや明るい励ましの言葉をかけてやってほしいと願わずにはいられません。