2017年9月28日木曜日

2017 劇団通信10月号

一つのことを続けることの大切さを機会あるごとに子ども達に言って聞かせています。

しかしこれほど難しいものはありません。一年や二年で終わることではなく二十年三十年、いやもしかしたら一生続けていく。そうなればもうプロ中のプロ、他の追随を許さない大専門家の位置に到達しているのです。

人として生まれてきたからには誰もが自分が生きてきた証となるようなしっかりした人生を送りたいと思います。そのためには何か一つでいいから続けていきたいと思うでしょう。商売にしても、芸術にしても、職人さんのような腕を磨くことは一生を通して出来ることです。本気で立ち向かう気さえあれば出来ないことではありません。

ひたすら一つのことに打ち込むこと、聞こえはいいけど生易しいことではありません。何度も挫折を繰り返し、自分の能力を疑い、打ちひしがれながらも又立ち上がり、光の見えない長いトンネルを歩いて行くようなものです。

自分に与えられた人生は自分だけのものです。他人との比較ではなく自分にしかできない素晴らしい能力をそれぞれ一人ひとりみんなが持っていることを知るべきです。その能力や才能は一生かかって磨いていくもので例え結果がどうであろうとも続けていくことに意義があります。

それが人生であり、この歳になって最近つくづく思うようになってきました。私は小学五年生の時にこの業界に足を突っ込み今なお続けている奇特な人間ですが、それでも毎日これでもかこれでもかと磨かせられている試練の人生です。




2017年9月11日月曜日

2017 劇団通信9月号

ミュージカルの主役は歌えることが第一ですが、それと同じくらい演技力が必要とされます。いくら歌が歌えても表現力がなければ務まりませんが、歌って演技し、 更に踊れるというのは持って生まれた才能に頼るところが大きいのです。

しかも主役を張るというのは観客を魅 了するような華がなくてはなりません。児 童 劇 団「大 き な 夢」の 場 合 は プロ 集 団 ではないので、そこまで厳しくキャスティン グに反映させられる訳ではありませんが、 やはり歌えるというのが第一条件で、その 上で演技力がある子たちをメインにする ようにしています。

各地の「子どもミュージカル」では約半年をかけて稽古をし本番を迎えるのですが、一週間に一度しかない稽古で最も時間を要しているのは振付です。これも毎週ではなく通常月2回程度のローテーションで回していますが、作品として成り立つようにするには絶対的に時間が足りません。しかも踊れる子とそうでない子がいる中でまとめていくのは並大抵なことでは ありません。

大劇団を始めミュージカルを行うよう なカンパニーはどこでも振付に最も時間 をかけているようです。ですから演技的な面にまで行き届かないまま本番を迎えてしまうケースが多く、我が児童劇団でも同じような現象が起こっていることに歯がゆい思いをしています。

 ミュージカルをやる以上仕方のないことだと諦めるしかありませんが、それにしては子ども達は本当によくやってくれて います。私の杞憂などそっちのけ、お客様のアンケートはほとんど賛辞の山で埋め 尽くされており、クオリティーの高さを求め過ぎないでお客様の反応を素直に喜び、明日の活力に変えていく私の心の切り替えが必要だと言い聞かせています 。


2017 劇団通信8月号

劇団四季の「キャッツ」の会場に入ると猫目線で作られた大きなゴミ捨て場に驚きます。その舞台セットを作ったのが土屋茂昭さんです。各地で上演されるたびに約4千点のゴミが蓄積されたそうで、現在ではアートと言える程のリアルな造形、質感を持った一点ものに変わっているということです。

土屋茂昭さんは劇団四季だけでなく日本の舞台美術の第1人者として活躍なさっていますが、BDPでも「ピエロ人形の詩」「魔女バンバ」「姫神楽」「緑の村の物語」「森のプリンス」の舞台セットでもお世話になっています。先日俳優座で上演した「Grow me up」も土屋さんのデザインです。その仕込みの時の空き時間の雑談で土屋さんが舞台美術家になった経緯を聞くことができました。何と運のいい人だと感心してしまいました。

20代のフリーターだった頃、新宿のアートシアータに見学に行ったらたまたま舞台稽古中の舞台美術家の金森馨氏と出会い、それがきっかけで劇団四季に入ることになり、金森氏のアシスタントを8年間務めていたが、その師匠が急逝してしまい、劇団四季の舞台美術に大きな穴が開いてしまった。2人いた先輩も何本かの作品を手がけては去っていき、結局土屋さんだけが残って急遽ピンチヒッターとしてキャッツの日本版の装置デザインを任されることになったというのです。運命の不思議さを感じずにはいられません。

師匠の金森氏に偶然出会ったこと、そしてその師匠が亡くなり先輩もいなくなったということ。自分の意思ではない不思議な力によって運命を引き寄せているのです。勿論それに伴う人並みはずれた実力があるからこそ現在に繋がっていますが、土屋さんは言っています「理想がないから挫折もなかった」と。



2017 劇団通信7月号

7月2日が私の誕生日です。今年は劇団の主催公演「グローミーアップ」が7月2日に千秋楽を迎えますが、この日を境に私は光輝高嶺者になります。一般的に言われている「後期高齢者」という言葉、「もうあなたの人生おしまいですよ」というような響きがあって感じがよくありません。だから私は敢えて光輝と言おうと心に決めていますが、もっともっと光輝く人生を歩むために出来るだけ高い嶺に向かって登り続けようと思っているからです。

人の寿命は一律ではなく長生きする人もいれば早世する人もいます。誰しもどんなに強い意志を持って長く生きようと思っても思い通りに行くことはほとんどないでしょう。何故ならみんな自分の意思で生まれてきた訳でもないし、自分の意識があるとかないに関わらず例えば眠っている時でも心臓や内臓は休むことなく働き続けていることなどを考えると、私たちは自分の力で生きているのではなく不思議な力によって生かされていることが分かるからです。

天寿を全うするといっても一人一人の寿命が異なるために時間の長さで決められるものではありませんが、私に置き換えて言えばまだまだやることは一杯あるし、大きな夢も持っています。しかしそれを実現するためには持ち時間があまりにも少なく、高い嶺を目指して登っていても途中時間切れで終わってしまうかもしれません。でも肉体は死滅しても劇団に対する私の思いはしっかりと受け継がれていくでしょう。

もう私の運命が終わるような文面になりましたが、慶應義塾大学医学部教授で日本抗加齢医学会理事長の坪田一男先生のご提唱に従えば125歳までは生きられる筈です。



2017 劇団通信6月号

私にくるメールは個人的なものを除いてほとんどが劇団に対するクレームやお叱りなど気分的に落ち込むようなものが多い中で、先日久しぶりに心あたたまるメールが飛び込んできました。Grow me upに出演している子のお母さんからで以下のような内容でした。
 
自分の娘はグローミーアップの稽古が終わった後みんなで参宮橋駅へ向かったが、小田急線は人身事故のため上下線とも運転を見合わせていて再開までに1時間以上要するということだった。そこで同行していたアカデミーの石井美優と竹内菜々子が新宿まで歩こうと提案し小中学生3人を連れて新宿駅まで歩いたが、その日は気温も低く寒い中歩いているみんなに石井美優があたたかいココアを買ってくれた。

娘は「嬉しくて身体も心も温かくなったココアの味が絶対に忘れられない」と言っているということです。そして新宿駅に到着した子ども達は親に連絡をし、石井美優がそれぞれの親に遅くなった事情を説明し、竹内菜々子と二手に分かれて子どもたちを近くの駅まで送り届けたというのです。しかも石井美優は自分が帰る本八幡と全く反対方向の中央線の国立駅まで同行し、駅で待っていた母親のもとにまで連れてきたというのです。

この一連の行動に関して母親は「もちろん、家庭での教育が一番だと思いますが、劇団の環境が素晴らしいからだと思います。主人も美優ちゃんの行動に感心し”いい劇団だなあ”と何度も何度も言っています。私も美優ちゃんのお陰で劇団がもっともっと好きになりました」

私はこのメールを読んで「あゝ、あの子がこんな立派な人間に成長したのか」と感極まり涙が込み上げてきました。本当に嬉しいメールをありがとうございました。