2023年5月30日火曜日

令和5年 6月号

 宝塚歌劇団に入った児童劇団「大きな夢」の出身者は3人います。第一号が「初台KM」にいた田草川ゆかり (芸名 澄風なぎ)。彼女は十数年来宝塚の舞台に立って華やかに活躍していました。そのお陰で私も宝塚歌劇を観る機会に恵まれ東京公演だけでなく本拠地の宝塚大劇場まで足を運んだこともあります。男役として颯爽とした姿で登場する度に私はおじいちゃん目線でうっとり観ていました。

彼女はそのような舞台写真を近況報告と一緒に送ってもくれたりもしていましたが、今年6月の公演を最後に卒業することになってしまいました。卒業は宝塚の宿命みたいなところでしょうが、まだまだ若い彼女、女優として新たなスタートを切るこれからの活躍に心からのエールを送りたいと思います。

そして続く二番目はと言っても田草川とは10年以上の開きがありますが昨年デビューした「西船橋KM」出身の辻本朱里(芸名 瞳月りく)。私が彼女に一度宝塚を見た方がいいとチケットを手配したのがきっかけで宝塚歌劇に目覚め、2年間の宝塚音楽学校を経て昨年の4月のデビュー公演で堂々と口上を述べ正式にタカラジェンヌとしてのスタートを切りました。たまたまこの舞台が澄風なぎの所属している「宙組」の公演ということもあって、宝塚大劇場に出向き二人の孫を見るような目線で酔いしれていました。

そして3人目は今年4月にデビューした「初台KM」出身の山田早瀬(芸名 早瀬まほろ)。招待を受けたこともあって福岡KMの本番が終わっての帰途5月9日に宝塚に寄ってデビュー公演を観劇しました。彼女は新入団員の序列の二番目に位置していて期待度が高くこの先の活躍が楽しみな存在です。この雪組の公演は前述の「瞳月りく」も出演いて期せずして私の席のすぐそばで踊っていた彼女と一瞬目があったのが印象に残りました。

厳しい訓練を乗り越えてこそ華やかさが際立つ舞台であり、彼女らの魅力あふれるタカラジェンヌとしてのこれからに期待しています。





令和5年 5月号

最近劇団を卒業していった教え子たちから舞台の案内がいろいろ来るようになりました。それらの招待状が届くたびにそれぞれの道で活躍している姿を思い浮かべ、できるならその奮闘ぶりを実際に見て声援を送りたい親心も湧き上がってきます。しかしスケジュール的にうまく調整できないこともあってやむ無く断りを入れることもあります。劇団在籍時に私に絞られた子がその後の成長をぜひ観て欲しいと言ってくる健気さも理解できるので誠に心苦しいところでもあります。

先日東京芸大声楽科ソプラノ専攻3年の神原愛可(初台KM出身)が同期の3人でコンサートをやったのを観に行きました。神原は初台KMにいる時からメインで活躍していましたが、てっきりミュージカルの道に進むと思っていたのが桐朋学園の声楽科を経て難関の東京芸大声楽科に進みそのガッツに驚かされました。その時々に彼女は心境を知らせてくれていましたが、今回のコンサートは彼女がどの程度成長したのかを確認できる絶好の機会だと思い雨の中を出かけて行きました。

劇団にいた頃の彼女の歌声がなんとなくは頭に残っていましたが、舞台に立ったソプラの歌声を聴いた途端、戦慄にも似たようなショックを受け唖然としてしまいました。これまでもプロのソプラノ歌手の歌は何度も聴いていましたが、この時は劇団にいたあの子がこんなにも変わることができたという驚き、鍛えて作り上げていく凄さをまざまざと見せつけられてしまったのです。声は磨けば磨くほど限りなく向上するということを目の前で示してくれたコンサートは私に新たな活力を与えてくれた幸せなひと時でした。




令和5年 4月号

コロナの後遺症で咳が未だに完治しないまま、秋の記念公演「緑の村の物語」に出演することを決めました。本番中に咳き込んだらどうしようなどと取り越し苦労的なプレッシャーもあって嘗て味わったことのない心許ない心境になっています。

ところがその心配に輪をかけたように9月に上演するアカデミーの公演「ハムレットレポート」に出演することにしたのです。しかもセリフの多さときたら「緑の村」の比ではなくコロナ以降の私の体調から考えると無謀そのもの、セリフを覚えるだけでも若者の何倍も時間をかけなければなりません。「どうする家康」ではないが「どうする青砥 」! ! その 1ヶ月後には「緑の村」の本番も控えており二つの稽古が同時進行するという役者冥利に尽きる絶好のチャンスと若い時なら捉えたでしょう。

しかしもう若くない、本当にやれるのか ? 自分を極限にまで追い込んで覚悟を決めてしまったのです。というのも80歳という年齢がともすると万事消極的になり、新聞の死亡記事を見るたびに気持ちが沈み、後期高齢者というレッテルを貼られてもう先は短いですよと警告されているような暗い気分にもなりがち、これではいかんぞ 、前向きな生き方をしろ !! と敢えて大量のセリフが待ち受けている難関の道に挑むことにしたのです。アカデミーの劇団員は大学生や高校生、正に旬の若者達、そのエキスをもらいながら共に汗を流せる最高の環境、その利用価値に目覚めたのです。

 「ハムレットレポート」は大学の演劇科を中心に劇中劇「ハムレット」を挟んで進行していきます。私はハムレットの父親を殺害したクローディアスという叔父の役で、ハムレットと対立します。主演のハムレットを演じるのは高校生3年生の伊藤圭伸、暇を見つけては彼とマンツーマンの稽古をしていますが、回を追うごとにみるみる成長していく若者の姿は実に刺激的で羨ましい限りです。