2023年12月25日月曜日

令和5年 11月号

9月のアカデミー公演「ハムレットレポート」に出演しましたが、私の役者人生初体験の大きな失態、セリフが突如出てこなくなるという哀れな状況に見舞われてしまいました。

セリフというのは一旦頭の中に入ってしまえば稽古を重ねている内に自然に身体から出てくるようになり、例えば他のことを考えながらでもセリフのリズムに乗ってさえいれば淀みなく言葉が出てくるものです。しかし私の場合瞬間頭の中が真っ白になり、次のセリフが出てこない状況が稽古中に何度かありました。そのような時プロンプター(陰でフォローする人)がいて次の頭のセリフの一言でも言ってくれれば思い出せるものを、本番では舞台セットやワイヤレスマイクの問題もあってプロンプターは必要ないと自身で決めつけ、その代わり毎日しっかり身体に覚え込ませようと嘗てないほど反復練習に精を出しました。

老化現象と認めてクヨクヨするわけにもいかないので本番では開き直って舞台に立ちました。ところが稽古中では何の問題もなかった箇所で突然セリフが出てこなくなってしまったのです。みっともない最悪の状態でしたが、周りの若い出演者たちに助けられ何とか終えることができました。

人にはそれぞれ与えられた寿命があって長生きする人もいれば早逝する人もいます。役者としての寿命も人それぞれで私は今の81歳が限度だと言い聞かせています。これまで役者は健康であれば幾つになってもできるものだと考えていましたが、とんでもない、持っている部品がどんどんダメになっていく現実、補聴器をつけて舞台に立っても自分の喋っている音量がどの程度かも曖昧で、こんな情けない状態でやるべきではないと自戒しています。自然が与えてくれた流れの中でもう役者は卒業しろと天から聞こえてきたような気がします。

「緑の村の物語」のセリフで「自分で弾けなくても教えることはできるんだ」と悟るシーンがありますが、そうなのです。私の残りの人生を捧げます。